留学だより
神奈川県立がんセンターへの留学
浅間 宏之
留学先 | : | 神奈川県立がんセンター |
期間 | : | 2018年4月~2020年3月 |
私は2018年4月から2020年3月まで、横浜市の神奈川県立がんセンター消化器内科(肝胆膵)に留学させていただきました。神奈川県立がんセンターでの研修につきまして報告いたします。
●神奈川県立がんセンターについて
神奈川県立がんセンターは横浜市西部の旭区二俣川にあります。二俣川へは横浜駅から相模鉄道で海老名方面に向かい10分ほどであり、2019年には新宿方面にも乗り入れ、都心にも乗り換えなく往復できるようになりました。主要道路である保土ケ谷バイパスのインターチェンジも近く、交通アクセスの良いところです。神奈川県立がんセンターには、横浜市北西部や川崎市を中心に、神奈川県全域および県外からも多数の患者さんが訪れています。また、医療ドラマの撮影にもよく使われており、週末は毎週のようにロケが行われていました。
●消化器内科(肝胆膵)での研修
神奈川県立がんセンターの中でも消化器内科(肝胆膵)は特に多くの患者さんを診療しており、初診患者さんは年間約1000人、膵癌の新規化学療法導入は年間約300人となっています。また、胆膵癌の診療のためには多くの処置が必要であり、内視鏡下処置では、ERCPが810件/年、超音波内視鏡(EUS、EUS-FNA)が740件/年と多数施行されており(いずれも2018年実績)、経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD、PTGBD)や肝生検などのエコー下処置も多数実施されています。処置が多い背景として、胆管炎や肝膿瘍のドレナージは遅滞なく24時間以内に処置することを原則としており、緊急処置が多くなり大変ではありますが、化学療法を安定して継続するためには非常に大切なことだと実感しました。このような中で、私も多数の化学療法を実施し、適切な治療選択や副作用への対応などを身につけることができました。
私が留学していた2年間の間にあった癌診療の大きな変化として、癌ゲノム診療の実践が始まり、ミスマッチ修復遺伝子異常を伴う癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の投与や、腫瘍組織を用いた遺伝子パネル検査が保険適応となりました。現時点では、膵癌や胆道癌ではこれらの遺伝子検査から治療に結びつくケースはかなり少ないのが現状ですが、がんセンターでは遺伝子異常を標的とした治験は多数実施されており、今後の発展が期待されます。また、遺伝子検査を有効に活用するためにも、様々な癌種の化学療法や、遺伝性腫瘍についての知識が重要です。留学中は、乳腺外科や呼吸器科、腫瘍内科、遺伝診療科など、他科のカンファランスにも参加し、幅広く化学療法の勉強をさせていただきました。
●臨床研究について
化学療法の進歩のためには、大規模な臨床試験が必要であり、日本では日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG) が中心となって多数の臨床試験を実施しています。神奈川県立がんセンター消化器内科 (肝胆膵) は、JCOGの肝胆膵グループにおいて常にトップクラスの症例登録数を誇っており、その他の多施設共同試験や治験も多数実施されています。私も臨床試験や治験への症例登録を行うとともに、様々な会議に参加させていただき大規模臨床試験の立ち上げや実施の過程を学んできました。また、JCOG施設の先生方のご指導のもと、多施設共同での後ろ向き研究を実施する機会をいただき、現在は研究計画(プロトコール)の作成を行っています。実際に自分で研究計画を立ててみると、研究目的に沿った研究方法の検討や評価項目の設定、さらには多施設で行うための情報共有など大変なところが多々ありますが非常に勉強になります。今後、プロトコールの承認を得て研究実施に進めるように頑張っております。
また、国際学会に参加する機会もいただき、2019年6月にシカゴで開催された米国腫瘍臨床学会(ASCO)に参加してきました。約3万人が参加する世界最大規模の癌学会であり、約2400の演題が発表され、世界で実施されている最先端の研究成果についての議論が行われていました。膵癌においても、重要な発表があり、BRCA遺伝子変異陽性膵癌に対するPARP阻害薬の有効性が報告されました。前述した遺伝子異常を標的とした治療がついに膵癌でも始まろうとしており、今後の展開が注目されます。
●最後に
今回の留学の機会を与えていただきました大平弘正教授はじめ医局の先生方、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。留学の前年は福島市内の市中病院での勤務でしたが、そのような中でも神奈川県立がんセンターへの留学を調整していただきありがとうございました。
この2年間の留学で、胆膵癌診療の実践のみならず、最先端の治療開発状況の勉強や、臨床研究の立案・実施など、貴重な経験をたくさん積むことができ、自分にとって大きなステップアップになりました。神奈川県立がんセンターで勉強したことを活かして福島の癌診療に貢献するとともに、今後の胆膵癌診療の発展にも尽力していきたいと思います。