公立大学法人 福島県立医科大学医学部 消化器内科学講座

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国際学会報告

第68回米国肝臓学会 AASLD The Liver Meeting 2017に参加して

平成20年入局 岡井 研

【はじめに】

2017年10月20日から24日まで、アメリカの首都であるワシントンD.C.にて開催された第68回米国肝臓学会(American Association for The Study of Liver Diseases:AASLD)The Liver Meeting 2017へ参加の機会を頂きました。私個人としては海外で開催される国際学会への初参加ということもあり、期待と不安に包まれながら12時間余のフライトを経て米国の地に降り立ちました。入国審査が終わるまで2時間半の行列という洗礼を浴びながら、それでも翌日からの学会参加に興奮気味でさほど疲れは感じませんでした。

【AASLD】

AASLDは世界中から約1万名の肝臓病専門家が集まると言われている肝臓分野で最も権威のある学会の1つであり、2017年は2239題が採択され、その内日本からの演題は口演14題、ポスター220題でした。当教室からは阿部先生がAIHと口腔内細菌に関する研究「Dysbiosis of oral microbiota and its association with salivary immunological biomarkers in autoimmune liver disease」としてポスターセッションで、私が大学院で行ったHCV感染阻害抗体の研究「Development of a new inhibitory antibody for prevention of HCV infection」としてプレナリーセッションで採択されました。演題応募の際に何気なくポスターでもオーラルでも可というチェックを付けてしまったことが失敗、いや貴重な経験ができたきっかけでした。

AASLDは密度が非常に濃く、なんと朝6時45分のEarly Morning Workshopから午前中は主にプレナリーセッションやレクチャー、ランチョンを挟み午後はパラレルセッションなどが午後6時過ぎまで多数の会場で同時進行されます。抄録集はアプリからチェックできるため、広大な会場でもちょっとしか迷わずに目的のセッションに参加できました。

 

 

話題の中心は近年その治療法がDAAの登場により飛躍的進化を遂げたHCV、全世界的に患者数が増加の一途をたどるNASH、そしてHCCだったようです。自身もHCV関連の発表であったことからHCVのSpecial Interest Group Programmingに参加し勉強させていただきました。本邦でも今後登場が待たれる非代償性肝硬変に対するDAA治療の成績やピットフォール、DAAによるSVR後のHCC発癌などメインストリームの話題から、欧米では鎮痛薬などで汎用される自己注射製剤によるHCV再感染など本邦とは異なる問題点があり、そういう背景から検査・治療へのハードルを下げる手段としてHCV迅速診断キットが開発され公共の場で配布もしくは通販で購入できたりすることなど国内では知り得ない問題とその解決への取り組みに触れることができたことは新鮮でした。

初日に阿部先生のポスター発表を見させて頂き、質問者との流暢なやり取りに感動しつつ、最終日の自分の発表への不安が徐々に膨らんでいくのを感じました。しかしながら連日他大学や他病院の先生方と食事をともにする機会に恵まれ、情報交換や人脈作りにもなる楽しく有意義な時間を過ごすことができました。

【発表】

5日間の会期の2日目に、私が発表する予定であるBall roomのドアがopenされました。教育講演に参加された阿部先生から会場の様子が写真で私のスマホに届きます。2000名ほど収容される特大ホールに映画館のようなスクリーンが5面、各スクリーンの間には演者が常に映し出される仕様です。この瞬間から少しお腹の調子が悪くなったことを思い出します。渡米直前まであまり意識していなかったのですが、私が採択されたのは光栄なことにPresidential Plenaryというメインセッションで、非英語圏からは私の他に1名Mayo Clinicの中国人の先生のみでした。私は特段英語が得意でもなく、場違いな存在ではないかと緊張を通り越し萎縮してしまいましたが、博士号取得のテーマである「HCV感染を阻害する新しい抗体の開発」に関して興味を示してくれたこと、それを大舞台で発表できるという経験の素晴らしさに、最後は吹っ切れて登壇できました。発表はともかく質疑応答はボロボロでしたが、大勢の方々に質問を頂き、世界中から注目される最先端の研究報告を福島医大からできたことを大変誇らしく思っております。

 

【ワシントンD.C.】

ワシントンD.C.はホワイトハウスや美術館群、ナショナル・モールという大きな国立公園が有名な大変美しい街でした。碁盤の目のように区画化されたストリートはわかりやすく、私は観光の際はもっぱらレンタルサイクルで街中を走り回っていました。町の随所にサイクルベースがあり、そこでクレジットカードを使って自転車を借り、目的地近くのベースに返すだけでOKです。全て無人なので気軽ですし、アプリでどこにベースがあるか、何台空いているかもひと目でわかります。学会に参加したあとは自転車に乗って坂を下り、スミソニアン博物館の一つである定番の国立航空宇宙博物館やVermeer展が開催されていたナショナル・ギャラリーを駆け足で巡ったり、阿部先生が良席を押さえてくださった地元のNBAチーム、ワシントン・ウィザーズの試合観戦をしたりと観光も大変満喫することができました。

しかし最終日の口演発表が近づくに連れ観光気分は吹き飛び、発表前日は学会を早めに退散しShake Shack(日本にも進出した大味ではない美味しいハンバーガーショップ)でひたすら発表原稿のチェックや質疑応答の想定に当てていた事を思い出します。ガチガチになった自分を心配して発表前夜に阿部先生が連れて行ってくれたギリシャ料理の「Zaytinya」は絶品でした。発表に向けたアドバイスと先輩の優しさが心に染み渡ったD.C.の夜です。こうして振り返ると本当に阿部先生におんぶに抱っこ状態でした。ありがとうございます。

空港までの距離がかなりあることがD.C.唯一の弱点ですが、帰国時は配車アプリである「Uber」を初めて使ってみたところ、本当にアプリでお迎え(GPSで自動)から空港までの送迎(アプリで行き先選択した時点で料金が表示され、カード決済するので明朗会計)をしてもらえ、しかもタクシーの半額ほどとお得でした。今回の学会出張で私が貢献できたのはこの場面オンリーでした・・・。

【おわりに】

私の国際学会への初参加はまさかのオーラルデビューとなり、デキはともかく大変貴重な経験をさせていただきました。肝臓医として最新の知見を学び、自分の研究を世界へと発信し批判を仰ぐことは、想像以上に刺激的な体験でした。学んだことを日常診療にフィードバックするとともに、いつかまたこの場で発表できるよう臨床や研究に邁進したいと思います。

今回このような機会を頂き、日頃からご指導を頂いております大平教授をはじめ、同門の先生方、研究をご指導頂いた基礎病理学講座の先生方、学会中の業務を負担していただいた医局員の皆様に心より感謝申し上げます。

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