公立大学法人 福島県立医科大学医学部 消化器内科学講座

研修医・医学生の方へ
residents / medical students

Home > 国際学会報告 > DDW2013に参加して

国際学会報告

DDW2013に参加して

引地 拓人(内視鏡診療部副部長・講師,平成7年度入局)

今年(2013年)の5月18日から21日までの4日間,アメリカ合衆国フロリダ州オーランド市のオレンジカウンティー・コンベンションセンターで開催されたDigestive Disease Week 2013(DDW2013)に,中村純先生(現在,国立がん研究センター中央病院で研修中)と阿部洋子先生(会津医療センター)と参加することができました.

このDDWは,「アメリカ消化器病学会(AGA)」「アメリカ消化器内視鏡学会(ASGE)」「アメリカ肝臓学会(AASLD)」「アメリカ消化器外科学会(SSAT)」の4学会からなり,アメリカ以外に,アジア,ヨーロッパからの参加者も含めて,2万人以上という多数の医師が集まる,消化器関連としては世界最大規模の学会です.

個人的には,4年連続6回目の参加になりますが,DDW2013で私なりに感じたことを,私の専門である消化管疾患を中心にご報告させていただきます.

日本にもJDDWという,このDDWを参考に開催されている大きな学会がありますが,大きな違いは2つあります.

1つは,口演セッションの形式・会場です.JDDWは,口演は,2時間から3時間という長時間の主題演題セッションと,一般演題に分かれていますが,DDWでは,一般演題はポスター発表が中心であり,厳選された演題や指定講演だけが口演となります.その口演も,1つのセッションあたり1時間半というコンパクトな時間の中で,通常1演題15分の持ち時間で口演とフロアとの質疑討論が行われます.その際,演者は,会場の中心に座る座長の脇で口演し,スクリーンは最低でも左右に2つあるという会場がほとんどです.いわゆる総合討論は通常ありません.

2つ目は,ポスター発表の形式・会場です.口演以外は,すべてポスター発表となりますが,日本のポスターセッションとは比べ物にならないくらい広大なスペースで多数のポスター発表が行われます.1つ1つのポスターを貼るスペースも広い上に,12時から14時の間に,すべての演者がポスターの前にいることが義務付けられます.そして,ごく一部の優秀演題以外は,座長はつかず,ポスターの前での直接の質疑討論になります.

また,JDDWは,主題演題セッションの時間帯と並行してポスターセッションが開催されてしまうため,ポスター発表は地味な印象がありますが,DDWでは12時から14時は,ポスターセッションのみの開催となり,大勢の参加者がポスター会場に集まります.新しい研究のアイディアは,ポスター発表から得られると言っても過言ではありません.

今回の我々の発表は,初日の5月18日に引地が「Peptic Ulcer in Fukushima Prefecture Under the Great East Japan Earthquake: For Two Months Following the Disaster and One Year Later」,5月19日に中村先生が「Is Endoscopic Submucosal Dissection Useful for Barrett's Adenocarcinoma?」,5月20日に阿部先生が「Does Hyperechoic Findings on B-Mode EUS Reflect Fibrous Changes in Patient with Chronic Pancreatitis, True or Fake? -Evaluation Using EUS Elastography-」(会津医療センターでの研究),5月21日に引地が「Prospective Study of the Efficacy of a L-Menthol Preparation in Esophagogastroduodenoscopy - Effects on the Inhibition of Peristalsis and the Identification and Borderline Determination of Gastric Tumors -」のポスター発表をしました.

また,アメリカのテキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンターに留学中の鈴木玲先生もポスター発表の演者として参加しており,元気そうなお姿を見ることができました.

今年のDDWでは,上部消化管の内視鏡診断・治療に関しては,新しい発見はなかったように思いましたが,それは毎年この学会に参加しているからこそ言えることでもあります(中村先生は,3年連続3回目).とはいえ,日本とは違う多くの特徴がありました.

まず,胃癌は「東アジアの風土病」とされ,DDWでは胃癌に関するセッションはわずかしかなく,そのセッションも,日本人を中心とした東アジアからの発表が多いという現状でした.そのような背景があるので,胃の手術は少ないのでは,と思う方も多いでしょうが,実は多いのです.それは,肥満手術が多いからです.肥満人口が約30%のアメリカでは,「banding」「Sleeve手術」「R-Y手術」といった肥満手術が日常として行われており,その合併症である穿孔や狭窄に対して内視鏡治療が盛んに行われています.

では,アメリカの消化管癌は,というと,まず大腸癌,そして,バレット食道腺癌の診断・治療が中心です.大腸内視鏡に関しては,大腸ポリープの見逃しを減らすために,直視レンズのほかにスコープ先端の左右にもレンズがあり,3方向が同時にみえるスコープが開発されていたことが驚きでした.また,IBSやIBDのセッションや演題が多いことが目につきました.バレット食道あるいは腺癌に対しては,早期癌であればEMRをして,背景のバレット食道は専用のAblationデバイスで焼灼をするという治療が行われています.

では,日本では消化管の治療内視鏡の中心を占めている「ESD」はどうかというと,韓国や一部のヨーロッパからの発表はあるものの,アメリカではまだ普及には遠いという現状のようです.ただ,同じ日本発の「アカラシアに対するPOEM」は,中国から多数の成績が報告されていると共に,アメリカでも大きな注目を浴びていました.その反面,アメリカの診断学は非常にシンプルで,日本の内視鏡医が必死になって施行しているNBI拡大観察を施行している施設は,残念ながら,ほとんどありません.


日本の学会と比べると,会場が広く,休憩所も多いこと,日本では味わえない国際学会の雰囲気(英語コンプレックスは,まだまだですが),日本との消化器診療の違いの認識,日本の学会では話をできない日本人医師との討論など,非常に充実した4日間でした.DDWに参加していると,観光も忘れて学会場に朝から晩までいても飽きません(嘘ではありません).

でも,観光も少しくらいはと,不真面目な上司(私です)は,まじめな後輩(中村先生と阿部先生)を無理やり連れて,「ケネディ宇宙センター」や「ディズニーワールドのナイトショー」に行きました.「ケネディ宇宙センター」は,スペースシャトルや月へのアポロ号の打ち上げ基地がある場所ですが,一大観光スポットになっており,満喫するためには1日必要です.

日本人の方に案内をしていただいたのですが,アポロ11号や13号,スペースシャトル打ち上げに関する逸話を教えていただいたり,実際の宇宙船や打ち上げ場をみたりと,1人の人間としての視野が広がったと思います.

夜は,食事をしながら,参加した3人で絆を深めると共に,玲先生や他病院・他大学の医師と交流を深めることができたことも有意義でした.

以上,とりとめのないことを書いてきましたが,この投稿を読んだ若い医師や学生の皆様には,福島からでも世界を見ることができること,世界へ発信することができることを知ってほしいと思います.そして,「福島だから...できない」ではなく,「福島だからこそ,できる」という気持ちで,一緒に福島を背負って,一緒に仕事をしていただければと思います.その専門として「消化器内視鏡」を選んでいただければ,さらに嬉しく思います.

また,海外学会への参加を躊躇している大学の医局の先生方(以前の私もそうでしたが)へ.DDWは,世界中の最先端の治療法や内視鏡機器を見ることができる場所です.海外の学会に参加して,初めて発見できることが沢山あります.まずは,一度参加してみてはいかがでしょうか.消化器内視鏡に関する考え方が大きく変わります(実は,この言葉は,3年連続一緒に参加した中村先生からのメッセージです)

ただ,一つ言えることは,日本人以外は英語が非常に堪能です.そして,逆に英会話に自信を持てれば,日本の若い医師でも,活躍の場が大きく広がります(玲先生を手本に,私を反面教師にして下さい).私は,40歳の手習いで,今頃英会話の勉強を始めました.私のように苦労しないためにも,そして,医師として飛躍するためにも,時間を作って英会話の勉強をしていただければと思います.海外学会に行ける機会は?そう,「今でしょ!」

最後に,DDW2013に温かく送り出して下さった内視鏡診療部教授の小原勝敏先生と安部和子主事をはじめ,消化器・リウマチ膠原病内科学講座教授の大平弘正先生,13年前にDDW初参加へのきっかけを作ってくださった会津医療センター教授の入澤篤志先生,中村先生の現在の勤務先の国立がん研究センター中央病院の諸先生方,そして,福島医大病院消化器内科の上部消化管・胆膵グループの同僚の先生方,内視鏡診療部のメディカルスタッフに感謝申し上げます.

ページ上部へ