国際学会報告
American College of Rheumatology (ACR) 2014に参加して
佐藤 秀三 (平成14年度入局)
平成26年11月15日~19日にかけて米国ボストンで開催されたACR 2014に参加してきましたのでご報告させていただきます。会場はボストン市内にあるBCEC (Boston Convention and Exhibition Center)という大きな国際会議場です。
Figure 1. BCEC会場前で撮影。大きな会場です。
発表
今回はPoster presentationで11月18日に「Clinical features in patients with anti-triosephosphate isomerase antibody-positive neuropsychiatric lupus erythematosus」というテーマで発表いたしました。神経精神ループス(NPSLE)においてはいまだに特異的な疾患マーカーが存在せず,しばしば診断に苦慮することがあります。抗リボソームP抗体などは現在も使われておりますが,やはりまだマーカーとして十分であるとは言えません。
以前我々はNPSLE患者血清を用いてTriosephosphate isomerase (TPI)という解糖系の酵素に対する自己抗体(抗TPI抗体)が血中に存在していることを突き止め,NPSLE患者のみに高い陽性率を示すことを示しました(Watanabe, BBRC 2002)。しかしながら,抗TPI抗体陽性のNPSLE患者が臨床的にどのような特徴を持っているのかについては検討されていませんでした。
今回我々は患者血清よりWestern Blotting (WB)法を用いて抗TPI抗体陽性と陰性の2群に分け,それぞれの臨床的特徴を検討しました。すると,ほとんどのパラメータ(末血、生化学、自己抗体、NPSLE症状の発現頻度)において有意差は見られませんでしたが,lupus headacheのみ有意に抗TPI抗体陽性患者で多いことが判明しました。しかしながら,その詳細については不明です。今後はどうしてそのような結果になったのか,メカニズムについて検討していきたいと思います。
発表では幾人かの研究者より質問もいただきました。また,日本人の先生方にも興味を持っていただきました。今後は論文化を目指して参ります。
Figure 2. Poster presentation会場にて発表してきました(自分のposterです)。
何人かの先生から質問を頂きました。
ACR2014について
まず反省点なのですが,NPSLEの話題に集中しすぎたため関節リウマチを初めとしたほかのリウマチ性疾患について十分に発表を聞く時間がとれなかったことがあります。いくつかの重要なTopicsがあったはずなのですが,会場が巨大であることも手伝い,自分が聞きたい演題を探すのすら大変な有様でした。まだまだ学会を俯瞰することができそうにもありません。今後の課題といたしたいと思います。
個々の研究発表はさすがACRで,採択された演題のすべてが高水準でした。わたしはほぼSLE関連の仕事を中心にみていたのですが,最近Rituximabを血管炎患者に使用する経験も持ちましたので,SLEにおける海外のRituximabに関する発表を探してみました。いくつかの欧州のPoster発表では難治性,治療抵抗性のSLE患者に投与した報告がみられ,7割程度有効であったとのことです。
ただし,infusion reactionなどアレルギーもあり,投与の際は注意が必要であると思われました。今後も使用経験が蓄積され,日本でももっと日常的にSLE患者にRituximabが投与できればよいなと思いました。
他大学の日本人の先生方も頑張っており,いくつかの素晴らしい発表がありましたが,以前私がサウスカロライナ医科大学(MUSC)で留学していたころに一時同僚であった白井悠一郎先生が発表した,全身性強皮症患者におけるpentraxin 3 (PTX3)についての発表が特に印象に残りました(A&Rでpublishされるようです。Shirai et al. Arthritis Rheumatol. 2015 Feb;67(2):498-507)。
彼のMentorである現日本医科大学教授の桑名正隆先生にもお会いし,お話をすることもできました(発表もされておられました)。ほかにもいくつか興味深い発表がありましたが,やや専門的すぎるところもあり,ここでは割愛させていただきます。
また,医局のご厚意により私は2012年4月から約1年8か月ほど米国のサウスカロライナ医科大学(Medical University of South Carolina: MUSC)のRheumatology and Immunology講座に留学させていただきましたが,その時に一緒に実験をしていた何人かの同僚に再会することができました。それぞれの研究テーマにさらに結果を蓄積し,深化しておりました。私も頑張らなければいけないな,と刺激を受けました。
同講座は毎年ACR期間中に同窓会のようなパーティーを開催しています。最近の近況も聞くことができましたが,私の直接の上司であったJohn Zhang先生は今回は来られなかったので,また会える機会を何とか作りたいと思っています。
ボストンについて
ボストンにはさまざまな一流大学が存在し(ハーバード大学,マサチューセッツ工科大学,ボストン大学など),学生が非常に多い街といえるかもしれません。
また,海沿いなのでシーフードが良く,食事も楽しめる街のようです。今回も数日ご一緒させていただいた免疫学講座の関根教授と,牡蠣(Oyster Bar)や中華料理(Chinatownにて)を楽しむことができました。ほかにもたくさん見るべきところがあるのですが,やはりボストン美術館とボストン交響楽団は注目に値すると思います。
今回はSymphonyを聴く時間がとれませんでしたが,ボストン美術館に行くことができました。いくつもの素晴らしい名画があるのですが,とくに印象派(ゴッホ、モネ、ルノワールなど)の絵画が素晴らしかったです。ボストンに行く機会がありましたら是非ご検討ください。
Figure 3. MUSC元同僚の先生と写真を撮りました。
Facebookでもつながっています。
Figure 4. ACR poster hall会場は連日たくさんの参加者でにぎわっておりました。
Figure 5 中華街 香港小食 (Boston時代のSeiji Ozawaもよく来ていたらしいです!)。
チャーハンが美味。
Figure 6 Oyster Barの牡蠣です(UNION OYSTER HOUSE)。
免疫学講座の関根教授、町田先生とご一緒させて頂きました。感謝!
まとめ
今回は今までに培った抗TPI抗体の研究を基礎にACRでの発表にあずかることができました。しかし,これで満足せずに,きちんと論文化してこの抗体の研究をさらに深めていきたいと思います。
また,できれば症例数も増やしたいところですので同門の先生方におかれましてはさらなるご指導,ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
御礼
今回もまた免疫学講座の関根英治教授と多くの時間を過ごさせていただきました。ホテルの宿泊や観光,食事などにも連れて行っていただき大変感謝しております。この場を借りて御礼申し上げます。
また,今回の発表や日頃の研究にご指導を頂いております大平教授,渡辺教授をはじめ留守中の業務を負担していただいた医局員,スタッフの皆様に感謝申し上げます。今後もなるべく継続的に演題を出せるように努力していきたいと思います。