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研究内容のご紹介
リウマチ膠原病内科学講座の研究テーマについて
当科では右田教授を中心に、リウマチ性疾患及び自己炎症性疾患(家族性地中海熱等)の病態研究や治療について精力的に研究を行っています。代表的なテーマ、論文について以下に記載します。また豊富な症例の経験をもとに臨床研究についても力を入れており、様々なテーマで研究がおこなわれています。
以下に研究の内容を提示します。
基礎研究編
・自己炎症バイオマーカーによるリウマチ性疾患の病態解析(右田、松岡、藤田):
Galectin-9は腫瘍細胞や抗原提示細胞に、またTIM-3はT細胞を中心に発現している細胞表面のマーカーであり、細胞間のシグナル伝達に関与しています。我々は患者さんの血液中の可溶性Galectin-9と可溶性TIM-3が、①血清反応陰性の関節リウマチ患者さんでは、疾患活動性と相関しさらに(抗CCP抗体が高値の患者さんにおいて)抗CCP抗体値と二つのバイオマーカーが相関することを見出しました。同様に、②この二つの血清中マーカーが全身性エリテマトーデス患者さんの血液中では、疾患活動性と相関しさらに臓器病変の有無に関与することを見出し、それぞれ報告しています (Fujita Y, Arthritis Res Ther 2020, Matsuoka N, PLoS One 2019)。
MEFV変異がHLAアリルとの組み合わせで重症化のリスクとなりうることを見出し、報告しています (Fujita Y, Mod Rheumatol 2019, Asano T, Arthritis Res Ther 2017)。
成人スティル病の発症は多彩な要因が存在することが知られています。我々は成人スティル病の患者さんにおいては、HLAアリルのパターンがその重症度と相関することを見い出しました。さらに家族性地中海熱の責任遺伝子である・自己炎症におけるシグナル伝達の解析、治療薬(右田、古谷、藤田、天目、横瀬):
これまで解明されていなかった自然免疫系における炎症の伝達経路に対する薬剤の効果について検証しました。痛風の治療薬であるコルヒチン、SLEの治療薬であるヒドロキシクロロキン、そして関節リウマチの治療薬であるJAK阻害薬が、IL-1βを介した経路をブロックすることを証明し、自然免疫系が関与する疾患に対する新規治療薬の可能性について報告しています (Temmoku J, Mod Rheumatol 2020, Fujita Y, Arthritis Res Ther 2019, Furuya-Yashiro M, Arthritis Res Ther 2018, Yokose K, Mod Rheumatol 2018)。
・自己炎症性疾患における血清アミロイドA蛋白遺伝子解析(右田、古谷(屋代)):
自己炎症性疾患である家族性地中海熱や成人スティル病の患者さんにおいて、アミロイド蛋白という異常な蛋白をコードするSAA遺伝子のうち、SAA1.3のアリル(遺伝子多型)の頻度が高いことを見出しました。これらの自己炎症性疾患においてもSAAとの間に関連性があることが判明し報告しています (Yashiro M, Medicine 2018)。
・IgG4関連疾患における補体の役割に関する解析(渡辺、杉本、紺野):
IgG4関連疾患はIgG4という抗体の分画が多数産生される疾患で、腎炎・膵炎・下垂体炎などを起こします。特に腎炎の患者さんの血液中の補体という蛋白が低下しているケースが多く見られます。我々のグループは、これまで証明されていなかったIgG4が直接補体を活性化する現象を世界に先駆けて報告しています (Konno N, PLoS One 2018, Sugimoto M, Mod Rheumatol 2015)。
・転写因子Fli-1におけるループス腎炎の病態制御機構の解明(佐藤):
全身性エリテマトーデスの動物モデルであるループスモデルマウス(MRL/lprマウス)を用いた研究を行っています。このモデルマウスを用いた実験で、ループス腎炎でのIL-17発現にFli-1が関与する可能性を見出し、報告しています (Sato S, Cells 2020)。
・神経精神全身性エリテマトーデスにおける自己抗体、バイオマーカーについての研究(渡辺、佐藤、浅野):
当科における先行研究で、神経精神全身性エリテマトーデス(NPSLE)の患者さんの血液や髄液中では、解糖系の酵素であるTPIに対する自己抗体(抗TPI抗体)が発現していることを見出し(Watanabe H, BBRC 2004)、さらに髄液中におけるTPI抗体を含む免疫複合体の沈着があることを報告しました(Sasajima T, J Neuroimmunol 2006)。また、NPSLEの患者さんにおいては無菌性髄膜炎で陽性の頻度が高いことを発見しました (Sato S. Clin Rheumatol 2017)。ついで、NPSLE患者さんの髄液を用いて、炎症性蛋白であるα2 macroglobulinと炎症関連蛋白に関しても報告しています (Asano T, PlosOne 2017)。これらの知見についてレビュー論文も今年発表を行いました(Sato S, Fukushima J Med Sci 2020)。
臨床研究編
・高齢者におけるANCA関連血管炎の治療(佐藤、古谷):
高齢発祥のANCA関連血管炎における免疫抑制療法の効果を検討しました。高齢者の患者さんでは、免疫抑制剤を使用すると副作用も多く十分な量が使用できないケースも多くあります。しかし、高齢の患者さんにおいても、若年者と同様にステロイドと免疫抑制剤を併用する治療法は生命予後を改善することを報告しました (Sato S, Geriatr Gerontol Int 2018)。
・全身性エリテマトーデスの疾患レジストリ構築〜LUNA study〜(佐藤、松岡、古谷、藤田、天目):
当科は全身性エリテマトーデスのレジストリ構築(多施設共同研究, LUNA study)の参加施設となっています。これは、全国の約1,000例のSLE患者の情報を多施設間で集積し、臨床的に重要な課題(クリニカルクエスチョン)を抽出して、検討・解析を行い実際の臨床に還元することを目的としています。
・ループス腎炎の予後因子の解析の検討(鈴木、古谷):
当院と関連施設における、全身性エリテマトーデスによる腎炎(ループス腎炎)の患者背景および予後を規定する因子についてデータベース化し、検討を行なっています。
・炎症性筋疾患の自己抗体に関する検討(古谷、天目):
これまで、抗MDA-5抗体陽性の皮膚筋炎性間質性肺炎の患者では生命予後が著しく悪いことが知られています。当科では抗MDA-5抗体および抗SSA抗体の両者が陽性例ではさらに生命予後が悪いことを見出し、報告しています(Temmoku J, Medicine 2019)。また、急速進行性間質性肺炎合併皮膚筋炎の症例報告(Furuya-Yashiro M, Fukushima J Med Sci 2018)等を行っています。
・実臨床におけるリウマチ性疾患における関節エコーの有用性の検討(浅野):
関節リウマチや乾癬性関節炎患者の関節内では体表から触っただけではわからない炎症が多いです。従来、これらを知るには血液検査、MRI検査などが用いられてきましたが、どれも活動性の炎症をその場で捉えるには限界がありました。活動性のある炎症の強い関節にエコー(超音波)を当てることで、他の検査では知ることのできなかった異常な血流のシグナルを見ることができます。それにより関節痛を訴えている患者さんの正しい診断、早期治療を実践できるようになります。また、近年、関節リウマチに対する生物学的製剤の使用が増加してきており、その治療効果や継続率などについても解析を進めています。
(文責:佐藤)